しっかりと重ねられるスタッキンググラス。シャープなラインを際立たせたフォルムは、 金型職人とガラス職人の類い稀な手筋が成せる技。機械生産では感じえないテクスチャーが手に馴染みます。
街角の喫茶店に入店すると、小さなコップでサービスのお水を出してくれます。カウンターの片隅に積み上げたグラスがウォーターポットと共に置かれている様子は、日本に暮らす人々にとってはある種の懐かしさを憶える、馴染みの光景ではないでしょうか。こうしたグラスはオートメーションの機械による大量生産品がほとんどです。分割式の型を合わせた時にできるパーテーションラインが入っていたり、口縁がぷっくりと丸くなっていたりするものがマシンメイドのグラスの特徴です。そこで私たちは、これをハンドメイドの型吹きガラスで作ろうと考えました。型吹きで製作できたら、グラス表面の滑らかな質感や口縁の繊細な表情を持った、機能的で美しいグラスになると思ったからです。
課題は上下の段の切り替え部分の稜線を、いかにシャープに表現できるかでした。窯から取り出されたガラス種はみるみるうちに冷えて固くなってゆきます。金型に吹き込んだガラスは型の入隅まで辿り着く前に粘度が高くなり、丸みを帯びたまま固まってしまうのです。これを解決するために、金型に工夫を加えたり、吹き込む息のスピードや強弱を調整したりと試行錯誤を重ねました。そして、スタッキングできるという日常使いに適した機能性と、型吹きガラスならではの口当たりの良さや薄くて軽いという特性を併せ持った、さりげなく品の良いグラスが完成しました。