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透明な細長い直方体に円筒形の穴を開けたフラワーベースを作ろうと思い立ちました。形状は至ってシンプルで、サイズを決めたらスケッチも図面もすぐに描き終わりました。さて、これをどのようにして作ったら良いものか。
はじめ、これをガラスで作ろうと、光学ガラスのメーカーや、ガラスのトロフィーや盾を製作しているメーカーに相談してみましたが、私たちが求める仕上がりイメージと現実的な価格の実現が難しく、素材をアクリルに変更して可能性を探ることにしました。アクリル加工の会社にも何社も相談したのですが、皆さんから提案していただいたのはアクリルの角棒を切ってドリルで穴を開ける方法でした。しかしそれでは、穴の内側にはフロスト状の切削痕が残り、細い穴の内側が透明になるまで綺麗に磨くことができません。このシンプルなフラワーベースは全体の透明度が生命線です。
試行錯誤の中で、想像以上に難題だったこのテーマに共に取り組んでくれるアクリル加工職人に出会い、彼らといくつかの方法を試してみることにしました。最初はアクリルの中にガラス管を封入するという方法です。試作をしたところ、内側まで透明度を維持した理想に近い品物が出来あがったのですが、ひとつだけ難点がありました。アクリルとガラスはどちらも透明ではあるのですが、物性の違いから光の屈折率が違うため、隙間なく注型していてもその境界面がはっきり見えてきてしまうのです。やはり全てアクリルで製作しないと、最初に抱いたイメージが失われてしまいます。あとは型に液体状のアクリルを流し込んで作る方法しか残されていません。直方体の型に丸棒を差し込んで、アクリルを流し込みました。しかし、細い丸棒がアクリルに流されて斜めになってしまったり、丸棒を抜き取ったあとにどうしても面が荒れてしまったり、次から次へと色々な壁が立ちはだかります。型の素材を変えてみたり、固定方法を変えてみたり、アクリル職人のお二人はこの難題を面白がって、たくさんの工夫を重ねてくれました。タイムアンドスタイルの製品の中で最も単純な形状をしていますが、ここにはたくさんの紆余曲折と作り手の熱意が詰まっています。ガラスの角柱だと角の欠けを防ぐために、全ての角を大きく面取りをしておかなければなりませんが、アクリルで作ることによってそれをわずかな糸面に抑えることができ、より余計な要素が排除された、ストイックな佇まいを実現することができました。
植物を活けると、ガラスよりも高い透明度を誇るアクリルの花器本体は存在感を潜め、植物そのものがまるで宙に浮いているかのように、詩的な風景が見えてきます。