無塗装のままの曲物の木地盆です。曲物とは、熱湯で柔らかくした薄板を曲げて桜の樹皮などで合わせ目を綴じ、それに底や蓋をつけた器物のことをいいます。使い込むほど檜の白く柔らかい木肌に生活の痕跡が重なり、光沢を増してゆきます。
飛騨高山の骨董屋の主人からの人づてに、巡り巡って春慶塗の曲物木地の職人を紹介してもらいました。突然の訪問であったにも関わらず、私たちを仕事場に招き入れ、高齢のお父さんと一緒に製作をしている様々な木地を見せてくださいました。檜や杉を曲げた木地が所狭しと積み上げられた仕事場には、清々しい木の香りが溢れています。そこに、これから塗師のところへ持っていくのだという、シンプルな丸盆の木地がありました。木曽檜の端正な木目とその芳香、余計な作為のない造形が素晴らしくて、無理矢理に一枚だけ譲り受けて東京に持ち帰りました。その後、漆が塗られる前のその素木のままの品物を、私たちの店舗で販売させてもらうことになりました。檜は白くてやわらかいので、多少汚れ易かったり傷がつき易かったりしますが、その純真な美しさと使い込んで光沢を増す様を楽しんでいただきたいと思います。