食器としての審美性と容器としての機能性を併せ持った蓋付の鉢は、温かい料理を温かいまま提供できる心遣いの器です。常備菜や調味料を保存すれば、台所でも食卓でも活用することができます。登り窯で焼成を行うため、表情豊かでどことなく柔らかな趣に焼き上がっています。
島根県江津市の石見焼は、十八世紀ごろから、水甕やすり鉢、貯蔵用の壺などの日用の器を製作してきました。石見の土は、高温で焼成することが出来るため硬質に仕上がり、非常に堅牢で、耐水性、耐塩性、耐酸性に優れています。大きな水甕を製作するため、「しのづくり」と呼ばれる石見焼独特の技法が生まれました。ろくろの上に紐状の粘土を円を描くように積んで、半乾きの状態になったらまた上に積み、これを繰り返して目指す大きさまで積み上げて成形していきます。人の背丈ほどもある大きな水甕は石見焼を代表する産品として全国津々浦々に出荷され、産地は大いに繁栄しましたが、戦後、プラスチック製品が台頭すると急激に衰退し、現在はわずか数軒の窯元だけが作陶を続けています。